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小谷みどり『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』岩波新書 [本の感想系]

小谷みどり 『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓』
岩波新書 2017年7月28日 780円+税
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 第一生命経済研究所の小谷氏の著作。『変わるお葬式、消えるお墓【新版】』もそうだったが、氏はそれ以前からずっと「葬儀」について非常に広い視点から観察し、考察している。本書はその25年の「調査や研究の集大成でもある。」(あとがき)
 
 遠いような身近なような問題や課題として、恐らく誰もが葬儀やお墓について漠然としたイメージを持っているのではないかと思う。そしてそのイメージを元にして考えたり、調査したり、意見を交わし合ったりする。
 
 その時、たいていは自分の「イメージ」から無意識のうちに「葬儀やお墓はこうあることが望ましいのではないか?」と規範的な面を考えがちなのだと思う。それにはもちろん良い面もあるが、自縄自縛になりがちというか、自分で思い込んでいるだけの規範を考えすぎて変に苦しんでしまいというか、悪い面もきっとあるのではないかと思う。(少なくともわたしにはそういうところがあるようだ。)
 
 小谷氏の場合、その、葬儀やお墓に対する「イメージ」がまず非常に広くて柔らかく、偏見や思い込みが一切ない。「こうあるべき」という押しつけもない。だから調査を進める中で葬儀やお墓をめぐる視点がさらに放射状に広がっていく。日本の歴史的な調査はもちろん、海外にもおもむいて、一般的なものから、最近の流行のようなものまで幅広く紹介してくれる。
 
 読みながら何度も「そんなひどいことを!」とか「それはちょっとやり過ぎではないか?」などと思ったりしたが、でも無意識の「こうあらねばならない」というクビキのようなものを廃して考えると、「これでも良いのかも知れない!」と本気で思えて来る。
 
「私は、メディアから取材を受けるときに「どんなお葬式やお墓にしたいと思いますか」とよく聞かれるが、そのたびに「考えたことがありません」と答えている。そもそも何十年も先のことは、社会の状況も私の生活環境も変わるだろうから、考えても仕方がないと思っている。「もし、いま突然死したら」ということも考えていて、そのときは、死後を託す人を決め、本人たちに日ごろからお願いしているので、今のところ、何の心配もない。/ 誰とどんなところに納骨されても何のこだわりもないので、お墓をどうするかは、残された人が考えてくれればよいし、死んで数年ぐらいは、たまには思い出してくれるに違いないと私が一方的に考えている仲間もいる。まわりの人は迷惑かもしれないが、それでも何とかしてくれるに違いないと、心から信じきっているので、死後の不安は何もない。」pp.206-207
 
 この柔らかさが、本当にすごいと思う。ただ、これはわたしの偏見なのだが、自分でいちおう考えて、その状態から自分で責任をもって他者に託す、それ以外の託し方や託す相手も実はあるのではないかと、どうしても思えてしまった。
 
 とにかく、葬儀とお墓について、目からウロコの本である。
 
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「死後を、誰に託しますか」
 
◇参列者のいないお葬式
◇お葬式ではなく、身近な人たちによるお別れ
◇遺骨をお寺に郵送
◇身寄りがいても、引き取られない遺骨の増加
◇新しいつながりからうまれる共同墓
◇手元供養で、亡くなった人を思い出す
 
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「余談だが、骨あげと称して遺骨をかたちのまま骨壺に入れる習慣は、他の国にはない。諸外国では、火葬場に粉骨機が設置してあり、火葬が終わった遺骨はパウダー状にして遺族に返却されるのが一般的だ」p.130
 
「ぽっくり死にたい人は、長患いへの家族への気兼ねが大きな理由であるのに対し、病気で少しずつ弱って死ぬほうがいいと考える人は、自分の人生をきちんと締めくくりたいという思いがあり、両者では、死に対する考え方が違うことがわかる。」p.183
 
「自分は死んだら無になると考えている人でも、大切な人が亡くなって無になったとはあまり思わないはずだ。「自分の心の中で生きている」「私を見守ってくれている」といった感覚は、大切な人は無になっていない証である。こうした、一見矛盾した意識は、「自分のお葬式は不要だけど、大切な人が亡くなったときにはお葬式をする」「わたしはお墓はいらないけれど、大切な人のお墓参りはする」といった行動にもあらわれている。」p190
 
「死ぬ瞬間や死後の無縁が問題なのではなく、生きているあいだの無縁を防止しなければ、みんなが安心して死んでいける社会は実現しないのではないかと私は思う。」p.202
〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓 (岩波新書)

〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓 (岩波新書)

  • 作者: 小谷 みどり
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/07/29
  • メディア: 新書



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