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浜田寿美男『「自白」はつくられる』ミネルヴァ書房 [本の感想系]

「それでも、お前がやったのに、決まっている。」

「自白」はつくられる:冤罪事件に出会った心理学者 (叢書・知を究める)

「自白」はつくられる:冤罪事件に出会った心理学者 (叢書・知を究める)

  • 作者: 浜田寿美男
  • 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 単行本

 取り調べ者の「こいつがやったに決まっている」という取り返しのつかない根拠なき「信仰」に基づいて取り調べが行われた結果、自分がやっていないことを知っている被疑者は「落ち」、取り調べ者とともに、伝聞推定の「資料」をもとに犯行の一部始終を能弁に語りはじめる。

 非常にコワイ。いや「コワイ」を通り越して絶望すら覚える。

 裁判はわたしが思っていたよりも遙かに「カルト」化している。

 わたしがここで言っている「カルト」はもちろん「反社会的な行為を行う集団」という意味でのカルトである。他には表現のしようがない。

 何もしていない人をつかまえてきて閉じ込めて集団で問い詰めて「わたしがやった」と言わせる。その後さらに「精密」に取り調べて裁判に臨み、「自白はうそだった」と言い出す被疑者の主張を「ことば」の解釈の問題だけで潰し切り、死刑判決を下す。しかる後に真犯人と物的証拠があがってきて、それまでの裁判の何もかもが崩れ去った後で、やっと無罪と認め、釈放する場合もある。(が、無罪と認めず釈放しない事例も枚挙に暇がない。)

 通りいっぺんの「謝罪」はするが再発防止策を真剣には模索する気が端っからさらっさらないように見え、自浄能力も自己変革能力も一切ないように見える、というか実際そのように動いていると判断せざるを得ない面を色濃く持っている集団が「カルト」でないはずがないではない。

 本当に怖い。絶望的である。

 ただ、著者の「自白が無実の証明になることさえある」という見解は、たしかにいきなり接すると突飛すぎる。しかしこの本を読む限りにおいては、あまりに「なるほど!」と頷かされる面が多い。素晴らしい見解である。司法関係者からもっと真剣に取り合ってもらえれば良いと思う。わたしが当初から持っていた

 「無実の人がなぜ「自白」するのか?」

 をはじめ、

 「シロウト目には虚偽であることが明白すぎるほどに明白な自白がなぜここまで闇雲に重視されねばならないのか?」

 という素朴な疑問がこんなふうにあまりにあっけなくほどかれてしまうとは思わなかった。素晴らしい本である。

 ただ、内容的な重複が異様に多い。連載をそのままの流れで本にまとめるのではなく、もう少し全体を把握してから再構成・再執筆すれば、2/3、理想としては1/4くらいの分量になった本。そこだけが残念。

 しかし内容はものすごく良い。素晴らしい本である。大事なことなので二度は言う。本当に構成は残念。しかしその残念さを補ってあまりありまくりの本。

 「自白」だけにこだわってここまで書ける、ここまで問題をあぶり出せる。

 すごい。
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